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溝口は悲劇を描いて何を物語ったのか?

  • 良き心をもった女性が、絶望に打ちひしがれ、現世を憎むようになる。世間的に蔑視の対象であった女性の視点で物語を語る事で、汚れは社会に存在するのである、という強い社会批判をテーマとした作品である。
  • 映画が、独立した視点を持ち、ある社会的立場の人間からみた主観的な世界を表現しうるメディアに変遷してきたからこそ生まれた作風であると言える。ロシアでは社会主義のプロパガンダとして一部の大衆を鼓舞するのに使われた映画が、日本では妾/女性という社会的な弱者を代弁するメディアとして存在したのである。
  • 社会的なメッセージを持つ作品でありながら、溝口はロシアのそれと全く正反対のアプローチで映画製作をしている。ロシアでモンタージュが盛んに使われたのに対し、溝口は、長回しや固定カメラ等の静かな演出で作品を作り上げた。これは溝口の徹底したリアリズムを達成するための演出である。このリアリズムに対する徹底した姿勢は黒沢にも受け継がれて行く。