花様年華

ウォン・カーウァイと聞くと、どうしても『欲望の翼』とか『恋する惑星』のイメージが先行し『ブエノスアイレス』以降の作品を食わず嫌いでいたせいで、どういうわけか未鑑賞のままだった『花様年華』を劇場で初鑑賞。結果、かなり強くノックアウトされた模様。
社会通念や良心に束縛されながらも慎ましやかに過ごす隣人の、静かな逢瀬。この映画は、ある意味それだけである。しかしながら、ウォン・カーウァイの冷徹な観察眼は、恋の憧憬がその人の住む世界そのものを変えてしまう、その千変万化を静かに浮かび上がらせる。タバコの煙、雨、壁のポスター、スリッパ、ネクタイ、それら全てが色気を帯び、言葉にならない二人の愛欲を、溢れんばかりに湛えていく。
夢二のテーマがまた良い。繰り返される旋律は、あたかもこの時代に生きた人々が胸に秘めた情念の応唱のようである。加えて、重ね合う肌から漂う色気や、大胆に進むドラマの行間など、この作品が名作たりうる資質はかずあれど、実際にこの作品で改めて感心したのは、むしろストーリーテリングの巧みさだったりする。拍手。