狂乱怒濤

博士の異常な愛情ことDR.STRANGELOVEを観ました。二度目ですね。
この映画に関してはもう語り尽くされているので、今更何を書いても野暮なだけです。しかしながら、どうせ何を書いても繰り返しになるからといって、誰も新たに語ろうとしなければ映画は古くなっていくだけ。特にこういった名画はどの時代でも語ることが出来るから名画なのであって、たとえ繰り返しになろうとも、常に新鮮に語られるべきである、と思う。僕が特に気になったのは大佐というキャラクターと娯楽映画としての完成度の高さである。
初めて見た時は、切り裂きジャック大佐がなぜプランRを指示したかがよく分からなかった。彼が決断に至る顛末は結局描かれない。一応動機らしい動機で物語の中で説明されるのは、彼の狂気と共産主義に対する妄想、の二つぐらいなのだが,「この一切の悲劇はアホが一人いたせいです」では納得がいかない。とても風刺が効いているとはいえない。というか、この程度の理由をあげて「博士の異常な愛情こそ風刺コメディの傑作!」と抜かすような輩が嫌いだった。まぁともかく、今ひとつはっきりしない作戦指示の理由と、その作戦指示によって唐突に始まる冒頭の二つが、何かを暗示しているようで、でも何を暗示しているかはよくわからなかった。
しかし、本当は、すべて語られていたのだった。むしろそれに気がつかなかった自分が情けなく思えてくるぐらいに。
ヒントは,狂気も妄想も恐怖の産物であるという考え方である。この方程式をもってくることで、ジャック大佐の行動がこの映画を構成する一部位として、しっくりはまるようになる。つまり、ジャック大佐の、共産主義に対する嫌悪は、裏を返せば自らの政府に対する失望、その下で生きざるを得ないという恐怖だったのだと思う。よくよく考えれば、ジャック大佐は、あの不毛で役立たずな政府をずっと見てきているわけで、あの連中の下で働く軍人の不安は、言葉では言い表せないものがあったのだろう。
こう考える事によって、この映画の構造がよりはっきりと見えてくる。やはりこの映画に於ける事態の元凶は会議室だったのだ。