幼年期の終り

20世紀後半、巨大な空飛ぶ物体が世界中に突如出現する。唐突に姿を現した侵略者達は、暴力的行為を一切伴わず、圧倒的な科学力で瞬く間に人類をコントロールし始める。オーバーロードと呼ばれた侵略者達の本来の目的は分からないまま。しかし人類は、オーバーロードの絶対的な統治の元、有史以来最も平和な時代を享受する。彼らの侵略から50年が経過したあるとき、ある変化が起こり始める。
期待値が少し高過ぎたせいか、そこまで面白いとは思わなかった。おそらく理由は二つ。一つは、多神教の歴史を持つ日本の価値観ゆえに、”オーバーロードという絶対的存在による統治”という概念が受け入れにくいという点。もう一つは、社会問題や紛争問題がオーバーロードの力で解決できるという思想が若干古くさいという点。それらの社会問題に真摯に向き合っている作家達と比較すると、現実味に欠けるし、本質を見失っている気さえする。SFというジャンルにおける想像力がそもそも抽象的なのかも知れないけれども。
とはいえ、物語の芯はしっかりしているので、今現在は使い古されたモチーフでありながら最後まで面白く読む事は出来る。実際物語のクライマックスといえる第三章は、例えるならマーラーの交響曲のような悲壮感に満ちていて、SF小説ならではの高揚が味わえる。古典と呼ばれるのも納得です。

幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)

幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)