The Queen of Versailles

リゾート地経営とタイムシェア・ビジネスを成功させたビリオネアのデイビッド・シーゲルは、アメリカ国内最大級の一軒家を建設中である。外観はヴェルサイユ宮殿のそれを模し、内装もヨーロッパの古城のような超豪邸である。彼の妻は元ミス・アメリカで、現在でも新しいミス・アメリカを決める度に最終選考者を自宅に呼びパーティを開いている。彼らには六人の子供と一人の養子がおり、一流セレブとしてのライフスタイルを謳歌していた。彼のより輝かしい未来を疑う人間は一人もいなかった。2008年9月、世界の経済界を恐怖のどん底に陥れた、リーマンショックその時までは。
億万長者の興亡盛衰。規模こそ大きい物の、話としては決して珍しい物ではない。日本でも”波瀾万丈”とか”仰天ニュース”等で聞く類である。しかし、それらの殆どは事が一通り起きてからある程度時が経ってから語られるのに対し、本作はリーマンショックその当日、一週間後、一ヶ月後と目に見えて失墜していく様を生々しく捉えているのが素晴らしい。文字通りの栄枯盛衰をリアルタイムでドキュメントした作品はほとんど初めてな気さえする。決して気持ちのいい映像ではないが、例えて言うなら”犯人が捕まる直前に街灯インタビューに答えたいた映像”的な、奇妙なリアリティとゴシップ感に満ちた珍佳作に仕上がっている。
本筋と少し外れた、主人公の周りの人々のサイドストーリーが魅力的である。例えば、元ミス・アメリカの奥様が高校時代の友人に会いに行く件で、友人は「彼女の人生に嫉妬しなかったと言えば嘘になる。でも、彼女のように何でも欲しいとは思わない。」と語る。しかし彼女は、その友人の住宅ローン返済の為に1000ドルの小切手をサッと切る。自身の旦那が何百億という負債を抱えようとしているその時にである。対称的な二人の人生に少しの共通点を見えたと思えば、非現実的な存在が切実な問題を解決しようとするのが、何とも不可思議で面白い。