トラウマ

限られた予算の中でプロダクションデザインを担当するのは決して楽な仕事ではない。特に小道具に関しては、現場で何が起こるか予想が出来ないので、何が起こっても大丈夫なように本来は必要以上に在庫を用意しておきたいのだが、予算が少ないとそれができない。大体撮影をしていると、何が起こるか予想が少ない”危ないアイテム”がいくつか必ず存在して、今回はそれが風船であった。
いくつか予備は用意してあったんだけど、こういうのは大概、問題が起こってほしくない物に限って災いが降り注いでくるのである。
子役の男の子が椅子に風船をしばりつけるシーンで、彼は紐をしめるタイミングを失い、何となく背もたれに引っかかってるだけの風船は、ゆっくりと椅子から離れて行く。昨日膨らませたからヘリウムは若干抜けているので、しばらくはホバリングしたままだけど、少しずつ確実に地面から離れて行く。僕としても、カメラが回っているのでなりふり構わず追いかけるわけにもいかず、呆然と立ち尽くすしかない。カットが掛かってすぐ追いかてはみるものの、時既に遅し。クルーからの凍えるようなプレッシャーを背に感じながら、高い木の上を悠々と超えて遠くまで飛んで行く風船を追いかける。ああ切ない。
幸いにも違う風船に取り替える事が出来たものの、気は重い。ちょっとトラウマになりそうな光景でした。