546プロダクションデザインまとめ

結局のところ、この数ヶ月で自分が経験した事を自分なりに消化しきれていないのが現状である。挑戦し、満足し、落胆し、反省し、また挑戦をするというような日々が続き過ぎると、それらの感情が全て混ざり合って、出来事が鮮明に記憶されない。
おそらく、今回の経験を経て一番学んだのは、自分が今まで培ってきた作業のメソッドは映画制作に適用できないという点である。そのメソッドとは要するにじっくり時間をかけて入念に準備をする、という事なのだが、映画制作には、その入念に準備をする時間というのは存在しない。加えて、スケジュールやロケーションの変更なども頻繁に起こるため、入念な準備が突然無為になることもしばしばある。
ただ、だからといって入念な準備をしないという意味ではない。そもそも僕が入念な準備を行う最大の理由は、自分の心境を落ち着かせるが為である。しかし、心の準備を目的として物理的な準備を行っていくと、その計画が無為になったときの精神的ダメージは、何倍にも跳ね返る。つまり、僕が訓練しなくてはいけないのは、あらゆる変更に対する心の慣れである。
もう一つは、コミュニケーションスキルである。これはこの数ヶ月のストレスの中でも最も大きな物で、自分でもどうしたらよいか分からない最大の問題である。しかし、これは言語に依拠する点が大きく、映画制作の本質とはあまり変わらないのでここではあまり述べないことにする。
さて、美術そのものに焦点を当てて考えると、今回のプロジェクトで最大の反省点は、作品世界が曖昧だという点である。少なくともEditor's Cutを見た限りでは、この主人公達がいったいどの程度の街に住んでいるのかまったく見えてこない。実際この点は撮影前にも議論の対象になったのだが、あまり具体的な結論が出せなかったのが良くなかった。
この二ヶ月で学んだのは、自分に何ができるか、そして何が出来ないかである。それは単純にも聞こえるが、実際は、様々な挑戦を経てのみ得ることのできる貴重な財産であり、それを踏まえると、とても有意義な数ヶ月であったのだ。