運動靴と赤い金魚

今まで観る機会が無かったのが不思議なぐらいの傑作だった。兄妹がお互いを思いやる様のいじらしさ、過多に感傷的でない演出、それゆえに生まれる様々なドラマの現実感。ラストのマラソン大会での二人の走る姿がもたらす感動は久しぶりの感覚だった。ネオリアリズモの傑作『自転車泥棒』に匹敵する作品であるといっても過言でないと思う。
貧困や贖罪がテーマであるが、そこまで鼻につかない。それは、結局主人公の心情描写に作家の視線が集中しているからである。兄の罪の意識と贖罪の過程を、しっかりと彼の視点から描いている。決して容易い事ではない。
この映画の素晴らしいのは、テーマ性はもちろんの事、なによりそのストーリーテリングの妙にある。二人が直面する大小さまざまなトラブルは、”靴が無い”というその一点のみから派生している。外に干している靴がぬれてしまう、ぶかぶかの靴が河に落ちてしまう、授業に遅れ先生に咎められる、等等。こういう想像力の寛さは素敵だと思う。
シャボン玉や金魚のシーンの詩的感性もいい。初期の北野武とかもこういう感覚に満ちてた。こういう映画がもっと観られれば、映画を取り巻く環境はもっと豊かになる。